医学科入試を他学部と比較
こんにちは、医学部受験サポーターのむぎなべです。
医学部入試といえば、「現役合格は大変」「大学受験の最難関だ」とその難易度が高いことがよく言われます。
中には、「東大合格より難しい」「早慶は受かって当たり前のレベル」などとまで言われることも。
では実際のところ、どのくらい医学部入試の難易度は高いのでしょうか。
国公立医学部は東大より難易度が高い?
同じ医学部といえど、入試形態や難易度は私立大学医学部と国公立大学医学部とでは違いがあります。
まずは国公立大学医学部の難易度を他学部と比較してみましょう。
共通テスト(旧センター試験)のボーダーと偏差値
難易度の指標としてよく用いられるのが偏差値。
まずは国公立大学医学部の共通テストボーダーと偏差値をみてみましょう。
- 共通テストボーダー 82.7%〜92.7%
- 偏差値 64.0〜75.8
(なお、数値は駿台と河合塾それぞれの発表の平均値を使用)
国公立大学医学部の合格には、少なくとも得点率85%以上。北大などのさらに難易度の高い旧帝国大学の場合には90%以上の得点率が求められます。
他学部として日本最高峰大学である東大理系を例に挙げると、必要な得点率は90%。
国公立大学医学部の難易度は大学によってさまざまで、中には東大理系の方が難易度の高い医学部もあるという結果になりました。
共通テストや偏差値だけで見ると、東大などの難関大学他学部よりも難易度が低く見える医学部があるのが事実なのです。
倍率
では、医学部受験での倍率はどのくらいなのでしょうか?
国公立大学医学部の前期日程での倍率は、2〜10倍ほどで、平均すると4〜6倍程度。
一般的な国公立大学他学部の倍率は約4倍ですから、ここもあまり医学部と他学部とで難易度の違いがあるようにはみられません。
試験科目の違いはある?
ここから、医学部と他学部との難易度の差を作っている要因に触れていくことになります。
まずは試験科目の違い。
一般的な国公立大学他学部では、共通テスト5教科7科目に加えて二次試験で数学・理科・英語から2〜3科目が課せられます。
一方の国公立大学医学部では、共通テスト5教科7科目に加えて二次試験で数学・理科2科目・英語の4科目が課せられるのが一般的です。
このように見ると違いは二次試験だけのように見えますが、大事なのは内容。
他学部では、例えば共通テスト理科で「基礎科目2科目」や「基礎なし1科目+基礎科目1科目」といった内容になっていますが、医学部では最も難易度の高い選択となる『
意外と知られていないのが、社会の選択。
他学部では現代社会や倫理、日本史Aなど、2単位のものが一般的です。
一方の医学部では、現代社会など2単位科目の選択を可能にしている大学もありますが、多くの国公立大学医学部では日本史B、倫理政治経済などの4単位科目の選択を課しています。
すなわち、共通テストでは「5教科7科目」で同じといえど、医学部受験では理科や社会においても最も難易度の高く、最も広い範囲において高得点を取る必要があるのです。
国公立大学医学部の合格には、全科目の総合的な得点力が必要とされていますが、そう言われる理由がこの共通テストの選択難易度にあるのです。
問題の難易度は?
では、二次試験の難易度は医学部と他学部とで違うのでしょうか。
結論から言うと、大きく異なります。
数学を例に挙げると、大学受験でよく用いられる参考書に青チャートがあります。
青チャートでは問題の難易度を1〜5で示していますが、他学部の二次試験では難易度5の問題はわずか。
一方の医学部では、難易度5とされる問題が多く出題されるのはもちろん、その青チャートの挑戦問題レベル、ましてや青チャートでは触れられていない高難易度のかなりマニアックな問題まで出題されることがあります。
この『マニアックな問題』というのは、英語や理科にも共通しています。
単語数2000文字近くにもなる高難易度な超長文を課す医学部や、資料集にも載っていないような化学実験・物理現象・生物実験が問題として出題してくる医学部が珍しくありません。
つまり、医学部の二次試験は医学部独自の問題が課されるため、かなり特殊な難易度となっているのです。
ただし、国公立大学医学部の中には二次試験を医学部独自問題ではなく他学部共通問題としている大学もあります。
このような大学ではあまりマニアックな問題が出題されないため比較的難易度が低いように聞こえますが、共通問題となれば熾烈な高得点争いとなるため、たった1点すらも落とせないというシビアな世界となります。
医学部独自問題でも他学部共通問題でも、どちらのタイプであっても、国公立大学医学部の二次試験は非常に難易度が高いといえます。
面接・小論文
また、医学部入試では二次試験で面接や小論文が課されるのがほとんど。
九州大学がこれまで唯一面接の課されない大学として有名でしたが、その九大も近年面接を取り入れることを発表したため、面接のない医学部は無くなりました。
一方の他学部はというと、面接はもちろん小論文が二次試験で課されるような大学は非常に稀。
もちろん、AO入試や推薦入試では面接や小論文が当たり前となっていますが、一般試験前期日程で課されるのはもはや国公立大学医学部だけの特徴ともいえます。
ちなみに、面接や小論文で課される内容はこれまた大学により様々。
例えば面接は個人面接・グループ面接・グループ討論・プレゼン課題など大学により形式は様々で、小論文でもテーマ提起型・課題文型・国語型など大学によって傾向が異なります。
つまり医学部入試において、国公立大学医学部の合格を狙うのであれば、
- 共通テストで85%以上の高得点
- 二次試験で高難易度の問題が解ける、もしくは共通問題でほぼ満点を叩き出せるだけの偏差値(70前後)
- 面接や小論文も含め、社会や国語から数学理科まで全範囲を漫然なく、効率よく学習する能力
少なくとも以上の3点が必要不可欠になるのです。
現役合格率は平均約50%
ここまでで、やはり医学部入試は他学部に比べて難易度が高いという結果を見てきました。
この事実を如実に表れしているのがこの『現役合格率は平均50%』という事実。
国公立大学医学部は全国各地にありますが、各地域で優秀な学生が集い受験し、後期日程でも挑戦を重ねていますが、現役での合格はかなり難易度が高いのが現実です。
ちなみに、東京大学の現役合格率は70%、1浪を含めると90%を超えます。
これは他の国公立大学医学部にも共通する事実。
現役と1浪を合わせると多くの国公立大学医学部で70%を超えます。
つまり、国公立大学医学部の多くは、1浪までに合格できなければその後は浪人生活が延びるほど合格可能性が極めて低くなっていくのです。
私立大学医学部は早慶より難易度が高い?
ここまで、国公立大学医学部が他学部に比べて難易度が高いことを見てきました。
ここからは私立大学医学部の難易度に触れていきます。
昔の私立大学医学部は国公立大学医学部入試の滑り止めのような扱いだったそうですが、今では全くその影はなく、私立大学医学部は十分に難易度の高い受験といえます。
倍率
私立大学医学部の倍率は一般試験で4〜45倍。
他学部の倍率は、早稲田大学政治経済学部で9.4倍、慶應義塾大学法学部で6.1倍、慶応大学商学部で12.2倍。
国公立大学医学部よりも倍率は高い水準にありますが、他学部に比べればやはり医学部の倍率は高いといえます。
また、この『45倍』という倍率は他学部入試ではまず見ることのない数字です。
というのも、現在も国公立大学医学部志望者が私立大学医学部も併願で出願していたり、私立大学医学部志望者が複数大学を受験したりするから。
実際には、出願者数から実際に受験会場に集った受験者数の推移を見れば大きく数字が減る私立大学が多く、また試験合格者数に対して実際の入学者数は特に数字の差が大きい大学がほとんど。
つまり、多くの医学部受験生が私立大学に出願するものの、先に国公立大学や他の私立大学医学部に合格したためにそもそも受験しなかった、受験して合格したけど行かなかった、というのが珍しくないのです。
したがってこの私立大学医学部の倍率の高さは、安に私立大学医学部の難易度が高いことを示しているわけではなさそうです。
試験科目
私立大学医学部の試験科目は、「英語、数学(ⅠA、IIB、Ⅲ)、理科(物理、化学、生物)2科目」が基本です。
ただ、東海大学や兵庫医科大学、帝京大学では理科1科目での受験が可能。
また、近畿医科大学と帝京大学では数学の出題範囲に数Ⅲが含まれません。
このように私立大学医学部の試験科目は大学により異なります。
これは他学部入試のおいても言えることですが、やはりここにも違いが。
理系私立大学の他学部入試では一般試験で課されるのは、英語・理科・数学などの中から2〜3科目であることがほとんど。
中には数Ⅲが課されない学部も珍しくなく、試験で課される内容からでも、私立大学医学部の難易度が他学部に比べて高いことがわかります。
問題の出題形式
私立大学医学部の問題はほとんどがマーク式。
これは他学部入試でも共通しています。むしろ、他学部の私立大学理系の中には試験で筆記試験を課している大学もあるため、その点では難易度が易と言えるかもしれません。
しかし、国公立大学医学部と同様に『医学部独自問題』であるため、試験内容はかなり難易度が高いです。
穴埋めや選択形式であるとはいえ、問題自体が高難易度ですから、あまりにも難しいテーマだった場合には何も答えが思い浮かばず適当にマーク、事実上の白紙で提出したという受験生も珍しくありません。
多くの受験生がマーク式と聞いて難易度が比較的易だと感じるようですが、思考過程が書けない・別解で解けないなど、マーク式ならではの困難もあるため、一概に私立大学医学部の方が国公立大学医学部よりも難易度が低いとはいえないのです。
面接・小論文
私立大学医学部でも面接や小論文が課せられます。
ただし、国公立大学医学部では二次試験として筆記試験と面接・小論文が同日程で課せられることがほとんどですが、私立大学医学部では異なります。
私立大学医学部では一般試験の一次試験として筆記試験が課され、その合格者のみに二次試験として面接・小論文が行われることがほとんどです。
私立大学医学部の受験者数が非常に多いために、段階的に選抜を行っているのです。
したがって、面接や小論文の重要度は、国公立大学医学部よりも私立大学医学部の方が高いといえます。
その点では、私立大学医学部の方が難易度が高いとも言えるでしょう。
2浪以上の割合が高い
国公立大学医学部の難易度についてご紹介している中でも触れましたが、国公立大学医学部は2浪以上での合格が極めて困難となります。
そのせいもあってか、私立大学医学部の合格者は2浪以上の割合が非常に高くなっています。
以下に、入学者の現浪比を公開している私立大学から一部をご紹介してお示しします。
大学名 | 現役 | 1浪 | 2浪 | 3浪 以上 |
---|---|---|---|---|
岩手医科大学 | 15.0% | 28.8% | 55.0% | 1.7% |
東京医科大学 | 39.2% | 37.5% | 15.0% | 8.3% |
東京慈恵会 医科大学 |
35.5% | 46.4% | 15.5% | 2.7% |
日本医科大学 | 26.4% | 46.3% | 18.2% | 9.1% |
北里大学 | 53.8% | 13.4% | 10.9% | 21.8% |
聖マリアンナ 医科大学 |
44.3% | 23.5% | 13.0% | 19.1% |
金沢医科大学 | 12.4% | 31.4% | 20.0% | 36.2% |
藤田医科大学 | 15.8% | 35.8% | 21.7% | 26.7% |
川崎医科大学 | 19.5% | 21.9% | 28.9% | 29.7% |
このように、私立医学部のほとんどは、多浪生合格が多いのが現状です。
これが医学部入試が全体として難易度が高く、かつ私立大学医学部は学費が非常に高額なために、まずは国公立大学医学部に挑戦し、浪人を重ねた医学部受験生が私立大学医学部の受験に流れていくという、ある意味型取られたストーリーによって起きている現象ともいえるでしょう。
なぜ医学部受験の難易度は高いのか?
ここまで、医学部入試が他学部に比べて合格するのに難易度が高いことについて解説してきました。
しかし、いったいなぜここまで医学部受験では、他学部受験に比べて難易度が上げられているのでしょうか。
医学を学ぶのには高度な記憶力と理解力が必要
医学部は合格して一安心ではなく、むしろそこがスタートであり、いっそう忙しくなります。
合格したのもつかの間に、入学してすぐに専門科目が始まったり早期体験実習といった病院実習があり、膨大な知識を短期間で覚えきらなければなりません。
また、生理学や病理学などは学問として理解するのが難しいため、高度な理解力が求められます。
一科目でも落としてしまうと即留年が決まってしまうような医学部も多く、大学側もなるべく留年者を出したくないため、入試で難易度を上げて6年間無事に進級できるような生徒を選んでいるといえます。
また、最終目標はあくまで医師国家試験合格であり、大学側は国家試験の合格率を上げたいと思っているので、入試では優秀な生徒をなるべく剪定しているために医学部受験の難易度を上げていると考えられます。
本当に医者になりたい人を求めている
近年不景気ということもあって安定した資格職で、高収入を得られることから医学部受験ブームが訪れています。
医師というハイステータス欲しさに生半可な気持ちで入学する学生が増えてきてしまう現状があり、そういった学生は入学後の医師になるというモチベーションが低いことで留年したり、中退してしまうケースも見られます。
先ほども述べた通り、大学側はなるべく留年者数を減らし、医師国家試験合格率を高めたいので、小論文や面接などを通してふるいにかけているのだろうと思われます。
他学部の優秀層が力試しで受験している
また医者になるつもりもないのに、難関試験である医学部受験を突破したという勲章ほしさに、他学部の優秀な生徒の一部が力試しとして受験しに来ているという現状もあります。
こういった医者になるつもりがないのに力試しで受ける学生が増えているために、医学部の倍率は高くなっていっています。
そしてこうした学生が第一志望の他学部に不合格で、結果的に医学部に入学してくるなんてケースもあるので、ただでさえ少ない定員枠が埋められてしまっています。
まとめ〜医学科受験合格のための必勝法とは?〜
ここまで、医学部入試が他学部よりも難易度が高いということについて、国公立大学と私立大学とで分けて解説してきました。
最後に、簡単に、医学部入試で合格を勝ち取るために必要なことをご紹介します。
医学部入試は情報戦
今回は再受験生対象のメディアのためあまり触れませんでしたが、医学部入試にはAO入試や推薦入試といった別の受験方法があります。
近年、他学部で広がる傾向を受けて医学部でも加速しているこの推薦形式。
また、毎年必ずどこかの医学部で、定員数削減や推薦枠増設など、動きが見られます。
これだけ難易度が高いと言われる医学部入試ですが、情報を正しく手に入れることでその年の『穴場』に気づくことができれば、比較的難易度を抑えて入試に挑むことができるのです。
もちろん勉強の努力は必要不可欠ですが、特にこだわりがないのであれば、全国の医学部に目を向けて情報を仕入れ、できる限り競争率の低い難易度の抑えら入試形式で受験することをおすすめします。
また、一度別の大学を卒業していたり、大学院や就職の経験がある人は医学部再受験や編入も検討してみてください。
早いうちからの対策が大事
国公立医学部であれば、5教科7科目。広い範囲を徹底的に網羅して高得点を獲得するためには早め早めの対策が必要になります。
私立医学部ももちろん、早めの対策が必要。というのも、私立医学部の試験問題は傾向と対策が命。傾向と対策さえ掴めば、偏差値の数字上では見込みのない大学すらも容易に合格することができます。
目安として、受験の1年前までには国公立志望か私立志望かを明確にし、夏休みごろにはある程度受験校を絞っておくことが必要です。